大阪高等裁判所 平成11年(ネ)807号 判決 2000年10月11日
控訴人
甲野春子
右訴訟代理人弁護士
谷村慎介
被控訴人
上條佳
被控訴人
上條泰子
右両名訴訟代理人弁護士
加藤安宏
被控訴人
ミサワホーム近畿株式会社
右代表者代表取締役
笹田秋
右訴訟代理人弁護士
村辻義信
主文
一 原判決中被控訴人ミサワホーム近畿株式会社に関する部分を次のとおり変更する。
1 被控訴人ミサワホーム近畿株式会社は、控訴人に対し、五五万円及びこれに対する平成五年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 控訴人のその余の請求を棄却する。
二 控訴人の被控訴人上條佳及び被控訴人上條泰子に対する本件控訴を棄却する。
三 控訴人と被控訴人ミサワホーム近畿株式会社との間に生じた訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その九を控訴人の負担とし、その余を被控訴人ミサワホーム近畿株式会社の負担とし、控訴人と被控訴人上條佳及び被控訴人上條泰子との間に生じた控訴費用は控訴人の負担とする。
四 この判決の第一項1は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは、控訴人に対し、各自、五四〇万円及びこれに対する平成五年一二月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
本件控訴を棄却する。
第二 事案の概要
事案の概要は、次のとおり付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決書一六頁四行目<編注 本誌二三二頁三段二九行目>の「埃塵」を「塵芥」に改める。)。
(控訴人の当審における主張)
一 被控訴人らの違法行為
1 解体工事
(一) 被控訴人ミサワは、羽曳野市環境美化条例六三条に定める事前公開標識を設置することなく本件解体工事をしたほか、同条例七条(廃棄物の処理及び減量化)、四四条(近隣騒音等の防止)、四五条(屋外作業等の制限)、五〇条(騒音等の防止)等に従うこともなかった。
(二) 本件解体作業が主に手ばらし作業でされたとはいえ、①旧建物の一階部分やトラックにはシートがない状態であったし、②控訴人方居宅のすぐ前に駐車したトラックに、埃やダニの付いた建具や畳等を無造作に投げ入れていたし、③粉塵の飛散防止のための撤水も満足にされていなかったため、埃等が控訴人宅を直撃した。
(三) 被控訴人ミサワの担当者は、控訴人や同居の長男には、工事着手前の挨拶もしなかった。また、被控訴人上條らは、控訴人に対し、「解体に際してはシートで囲ってしまうから埃も出ないし、大きな音も出さない。」などと説明していた。そのため、控訴人は、被害を未然に防止する措置を講じることができなかった。
2 新築工事
(一) 本件新築工事が基本的には工場で加工された部材を使用してされるものであったとしても、①組立の際やトラックからの積み降ろしの際の騒音には大きな金属音もあった。②工事中に出るゴミ類は、控訴人方前に駐車したトラックで搬出するために積み込まれる際、埃が舞い上がっていた。③外壁材は石綿が主材料になっているのに、ネット外で切断作業をして、高い金属音とすさまじい煙状の埃が立ち上がっていた。④控訴人の被害を回避するための合意書が交わされていたのに、被控訴人ミサワは、散水を怠ったり、作業時間を遵守しなかった。⑤本件工事により騒音や粉塵が多量に発生したので、被控訴人ミサワも控訴人にケアハウスやダスキンの料金を負担して、その責任を認めていた。⑥控訴人だけでなく、他の近隣者も本件工事による被害に苦情を述べていた。しかし、控訴人だけはリウマチによる電動椅子での不自由な生活をしていたので、他の近隣者のように臨機応変の策を講じることができなかった。
(二) 控訴人が被控訴人上條らに対し、右被害の予防・回避措置を講じるよう繰り返し抗議したのに、被控訴人上條らはこれを無視した。
控訴人がやむなく避難することに応じる旨の提案をしたが、被控訴人らは、ケアハウス通所の手当をしただけであった。控訴人がケアハウス通所を断念したのに、被控訴人らは、これに代わる入所施設を確保しなかっただけでなく、被控訴人ミサワの担当者Hは「ホテルなと病院なとさっさと入れ、お宅がどうなろうとうちは知らない。」等と暴言を吐いた。
(三) 日照制限
1 控訴人方と被控訴人上條ら方との距離は実測で4.51〜4.53メートルしかないので、冬至前後における日影時間は、午後一時ころから日没までである。
2 被控訴人上條らは、被控訴人ミサワの担当者らとともに、平成五年一〇月二日、控訴人に対し、戸外で地面を指さし、「影はこの辺で、日照では迷惑はかからない。」と述べた。そのため、控訴人は、これを信じて、日照被害の発生に備えることができなかった。
二 控訴人の損害
1 各症状の出現・悪化による損害
(一) 掻痒性皮疹
控訴人は、本件工事までにハウスダストによる掻痒性皮疹が生じたことはなかったところ、本件工事が開始された平成五年八月一八日から顔、手首にかゆみとじんましん様の発疹が見られるようになった。同年九月一五日にバラスを入れるために地面が掘り返されたことや、工事現場で職人らが簡易トイレを控訴人宅の眼前に設置しようとしたことを巡るトラブル等で、埃のほかにストレスが高じて、控訴人の顔面が一層腫れ上がった。同年一〇月四日から一七日まではケアハウス通所で症状が一旦軽減されたが、一七日からは顔面等の症状が現れ、痛みで睡眠不足や疲労が重なり、同年一二月二二日ころまでは右同様の症状が続いた。しかし、本件工事が終了した後の平成六年一月六日ころからは顔の紅斑が軽減され、同年三月三日には顔の皮疹もでなくなった。
(二) 肝機能障害
控訴人は、平成五年八月二六日及び同年九月九日の検査で、肝機能に係るGOT、GPT数値が従前の正常値内から正常範囲外の異常を示すようになった。
(三) メニエール病
控訴人は、平成四年三月ころから同年五月ころまでの間、メニエール病を発病していたが、その症状も治まっていたところ、本件工事開始後の平成五年一〇月一八日から再び回転性めまいや難聴・耳鳴りの症状が頻発するようになった。
(四) リウマチ
控訴人のリウマチは、平成五年七月三日に道後温泉病院を退院したころには寛解状態になって安定するようになっていたのに、本件工事開始後、関節などに激しい痛みを伴う症状が出て、同年九月二二日には右病院で再び診察を受けなければならなくなった。
2 精神的損害
控訴人は、本件工事期間中、前記の騒音や自己の症状のほか、朝夕の散水と窓を閉めて息を潜めて暮らさなければならなかったことにより、著しい精神的苦痛を被った。
3 日照被害による損害
リウマチの症状悪化を防ぐためには、日光を浴びることが有効であるとされているところ、本件工事後の日照被害により、右症状が悪化の一途をたどっている。
三 因果関係
多数のアレルギー性疾病患者がいることは通常の事態であり、控訴人が本件工事により右症状の発症と悪化の被害を被ったことは通常損害の範囲内である。しかも、被控訴人上條らは、控訴人が障害者であることを本件工事前から知っていたし、被控訴人ミサワの担当者も被控訴人上條らから聞いて知っているか、知ることができた。そして、控訴人は、被控訴人上條らに対し、本件工事期間中繰り返し抗議していたから、被控訴人らは控訴人の被害状況を知っていたのであり、直ちに工事を中止して、何らかの措置をとらなければ、右症状が悪化することを理解していた。
四 受忍限度について
本件工事は受忍限度を超えた違法なものである。そして、控訴人は、本件工事による被害を緩和するために、高額の費用をかけて集光器や屋内エレベーターの設置をすることを考えているところ、損害の公平な分担の趣旨からも、被控訴人らは損害賠償義務を負うべきである。
(控訴人の前記主張に対する被控訴人らの答弁)
一 違法行為
1 解体工事
控訴人の主張はいずれも否認する。
羽曳野市環境美化条例に定める開発事業者は、被控訴人ミサワではなく、被控訴人上條佳である。
解体工事のためのユンボ持込みは、平成五年八月二三日であり、従前に同月二二日であると主張した点は改めるが、いずれにしても、一日だけであり、他は手ばらし作業であった。
散水のために使用した水道量は、基本料金の一六立方メートル以内であったものの、解体工事及び新築工事の際の粉塵防止のために必要な水量に余るものであった。
2 新築工事
控訴人の主張のうち、合意書を交わしたことや被控訴人ミサワがケアハウス利用代金等を負担したことは認めるが、その余はいずれも否認する。
本件工事で使用した外壁サイディング材は、石綿を含まないけい酸カルシウム板であった。
被控訴人ミサワがケアハウス利用代金等を負担したのは、控訴人の要求に応じて円満な関係を維持することにより、工事を円滑に進めるためであり、控訴人の被害の事実を認識したからではない。
本件工事に苦情を申し入れたのは、控訴人だけであり、他にはなかった。
3 日照制限
控訴人の主張はいずれも否認する。
二 損害・因果関係
控訴人主張の症状は知らず、その余はいずれも否認する。
第三 証拠関係
証拠関係は、原審及び当審記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
第四 当裁判所の判断
一 当裁判所は、控訴人の本件請求は主文第一項1記載の限度で理由があり、その余は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付け加えるほかは、原判決「事実及び理由」中の「第三 争点に対する判断」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決書一九頁一行目<編注 本誌二三二頁四段三一行目>の「甲第一」から三行目<同二三二頁四段三五行目>の「第五三」を、「枝番号を含む甲第一ないし第七五」に、四行目<同二三三頁一段一行目>の「乙第一」から五行目<同二三三頁一段二行目>の「第一三」を「枝番号を含む乙第一ないし第二一」にそれぞれ改め、六行目<同二三三頁一段四行目>の「証言」の次に「、羽曳野市水道局及び羽曳野市役所に対する各調査嘱託の結果」を加える。
2 同二二頁一〇行目<同二三三頁二段二五行目>の末尾に続けて「しかし、控訴人には会えなかったし、控訴人方については右のような措置はとられなかった。被控訴人上條佳も、控訴人方を訪ねた際には不在であったため挨拶できなかったが、同年八月八日ころ、旧建物から引越する際、三階建建物への建替えのために一時的に転居することを伝えた。その際、被控訴人上條佳は、控訴人に対し、「シートで囲ってしまうし、埃も出ないし、大きな音もしないし、近所に迷惑はかけません。日照のことも、市役所から調べに来て、基準内だから心配要りません。」などと述べていた。」を、一一行目<同二三三頁二段二七行目>の「行われ、」の次に「続けて基礎工事が同月二五日ころから同年九月二五日ころまで続けられた。」をそれぞれ加える。
3 同二三頁四行目<同二三三頁二段三二行目>の「行われ、」を「行われたものの、建具や畳類が旧建物の前に駐車したトラックの荷台に投げ込まれた際等には、相当の騒音や埃が出た。」に、五行目<同二三三頁二段三四行目>の「二二日」を「二三日(甲五七号証、乙一七号証の一、二)」にそれぞれ改める。
4 同二四頁五行目<同二三三頁三段一五行目>の「原告は、」の次に「本件工事による騒音や埃をひどく嫌い、自らも朝夕に自宅の外側や道路に散水するなどしていたが、右掻痒性皮疹等の原因を右工事の騒音や埃にあると考えて、立腹し、あるいは精神的疲労感を募らせるようになった。そこで、」を加える。
5 同二六頁一〇行目<同二三三頁四段二〇行目>の「原告が納得するような」を「適切な」に改める。
6 同二七頁一一行目<同二三四頁一段二行目>の「石綿を主原料にできており」を「石綿に代わるパルプ繊維を使用したけい酸質原料等でできたセメント材であるところ(乙二〇号証の一、二)」に改める。
7 同二八頁一〇行目<同二三四頁一段一八行目>の次に改行して次のとおり加える。
「 本件現場の作業員らは、合意書を必ずしも厳守せず、一〇月九日から同年一二月二六日までの間において、二〇日前後は散水をせず、又は十分な散水をせず同日数前後は始業時間前又は終業時間後に作業し、一二月二六日の日曜日も作業をした。」
8 同三二頁六行目<同二三四頁三段五行目>から同三五頁二行目<同二三四頁四段一三行目>までを次のとおり改める。
「2 しかし、通常の民家の工事であっても、前記のような影響の及ぶ範囲の居住者に病気を持ち自宅療養中の人がいる場合には、その病気の性質に応じて、その人に与える身体的、精神的負担をできるだけ軽くするよう配慮すべきこともまた社会生活上要求されるところであるから、そのような療養中の人がいることを知りながら、あるいは知ることができたのに、社会通念上この配慮を欠く態様で工事がされた場合には、右の人との関係で違法性を肯定すべき場合もある。控訴人は、この観点から被控訴人らの言動を問題とするものである。
そこで、検討するに、控訴人は、前記のとおり重症の難病を持ち、身体障害を持っている。右病気は身体的、精神的ストレスをできるだけ避けるべきものであり患者がそのように注意して療養していることは一般に知られているところである。また身体障害の程度は重い。そして、控訴人は、前記のとおり本件工事現場の目の前に住んで療養している。このような事実に鑑みると、控訴人が特に配慮されるべき人であることは明らかである。もっとも、被控訴人らが控訴人のこのような心身の状態や病気の性質を当初から的確に知っていたことを認めるに足りる証拠はなく、被控訴人らが周辺居住者の心身の状況を積極的に調査することには相当でない面もあるから、本件工事の規模、内容に照らしても、前記のとおりこの調査をする義務があることまでを認めることはできないが、前記認定によると、被控訴人らは、遅くとも平成五年一〇月三日の前ころまでには、控訴人が右のように状態にあったことをおおむね理解することができたと認めることができる。そして、このような状態のもとで、前記認定の書面による合意ができたのであるから、控訴人が右合意を重視し、厳に履行されるであろうと期待していたことは明らかであるし、このような経緯でできた合意が守られないときには、合意がない場合以上に控訴人がストレスを受けることになるであろうことも容易に理解可能なところである。したがって、被控訴人ミサワの担当者としては、右合意により控訴人が期待するところを良く理解し、これを厳守する注意義務があったというべきであるところ、前記認定によると、被控訴人ミサワの担当者は、右合意を相当程度は守っていたとうかがうことができ、また、些細な違反は事柄の性質上ある程度避けがたいところでもあろうが、それにしても、前記認定の程度に作業時間と散水に関する合意に違反したのであり、その程度はやむを得ない範囲を逸脱していると認めるべきである(やむを得なかったことを認めるに足りる証拠はない。)。そして、前記認定と控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は、被控訴人が右の合意を厳格に遵守しなかったため、実際に騒音や埃の被害を受けた上、病気に障る結果が生じることを深刻におそれ、相当大きな精神的苦痛を被ったことを認めることができる。
以上の認定によると、被控訴人ミサワの担当者が右合意を遵守しなかったことは違法であり、被控訴人ミサワは、これにより控訴人が被った精神的苦痛を賠償する義務があると認めることができる。
なお、控訴人は、前記掻痒性皮疹が本件工事から出た埃により発生したと主張するところ、証拠(枝番を含む甲五九及び六〇)によると、控訴人は相当前から、複数回、右掻痒性皮疹と同様のものと思われる皮膚疾患にかかった既往があることを認めることができ、その直接の原因は必ずしも明らかでないから、今回の掻痒性皮疹が本件工事の埃により発生したとはにわかに認めがたいといわざるを得ないが、甲六四号証によると、右の埃による可能性があるという程度にはこれを認めることができる。そのほかに控訴人の主張する身体的影響については、本件工事の結果そのような影響が生じたことを認定するに足りる的確な証拠はない。
3 控訴人は、そのほかにも被控訴人らの違法行為を種々主張するので検討する。
まず、被控訴人上條らに対する主張は、おおむね次のとおりである。①控訴人上條らは、本件工事前に旧建物建替えの工事内容等を説明して、控訴人の了解を得るように努めるべきであったのに、これをしなかった。②被控訴人上條佳が平成五年八月八日の引越当日になって、控訴人に対してした説明が実際の工事では実現されなかった。③被控訴人上條らは、控訴人の障害状況を知りながら、その悪化等に対する配慮をするよう、被控訴人ミサワやその下請業者らに注意を促さなかった。④控訴人が本件工事の騒音や埃等で心身ともに被害を受けていることを被控訴人上條らに訴えたのに、工事現場の状況を改善させようとしなかった。⑤本件建物による日照被害が受忍限度を超えている。
そこで、検討するに、前記認定と証拠(甲二一、控訴人本人)によると、右主張①ないし④の事実をおおむね認めることができる。しかし、①については、本件の場合にこれが違法であるとまでいえないことは先に判示したとおりである。また、②については、本件工事は比較的騒音や埃が少ないものであり、被控訴人上條らがそのように期待していたとしてもやむを得ないところであるし、現に、平均的な受忍限度の基準に照らすと格別違法とは評価しがたいものであるから、②の観点から被控訴人上條らに違法な点があったとは認められない。③及び④については、被控訴人上條らが前記認定の時期以前に控訴人の病気の性質を的確に知っていたこと、あるいは知るべきであったことを認めるに足りる証拠はないし、被控訴人ミサワがした前記合意の後は被控訴人ミサワがこれを遵守して工事にあたると期待してもやむを得なかったというべきであるから、右主張の点を違法ということはできない。⑤の点は後に判示するとおりである。そのほかには、被控訴人上條らについて不法行為があったと認定するに足りる証拠はない。
次に、控訴人は、被控訴人ミサワについて、次の要旨の主張をする。①近隣住民中に控訴人のような難病患者が居住しているか否かを調査せず、近隣住民に挨拶もしなかったばかりでなく、羽曳野市環境美化条例に定める事前公開標識の設置を怠った。②解体工事について、古い建具や畳類にはダニも付着しているのに、工事現場の囲いをせず、散水も加えないまま、搬出用トラックの荷台に無造作に投げ込んで、騒音と粉塵をまき散らした。③新築工事中は、合意書に反して、作業時間を遵守せず、散水も怠り、建材を切断したり、搬入・搬出する際に金属音を交えた多大な騒音をたて、粉塵を上げた。④控訴人のための退避場所提供を申し出ながら、ケアハウスが適していないことが判明した後は、適切な避難場所を確保せず、かえって、被控訴人ミサワの担当者は、病人は病院に入院してくれと暴言を吐いた。
しかし、①の点のうち事前説明及び調査については、先に判示したとおりである。また、事前公開標識について主張する部分は、これが本件工事について控訴人の権利侵害をもたらしたことを認めるに足りる証拠はない。②ないし④については、前記合意がされたころ被控訴人ミサワの担当者が控訴人の心身の状況を知り得たときまでの間は、先に見たとおり被控訴人ミサワの担当者の行為に違法行為があったと認めることはできない。なお、被控訴人ミサワの担当者らと控訴人との交渉過程で、控訴人の感情を害する発言がされたとの点は、控訴人本人の供述中にはこれに沿う部分があるが、証人Hの証言に照らすときわかに採用し難く、右発言中に違法性を帯びるほど不適切なものがあったと認めるに足りる的確な証拠はない。なお、控訴人の主張のうちには、そのほかにも羽曳野市環境美化条例違反をいう部分があるが、被控訴人ミサワが右条例の適用を受けるべき開発事業者であったとしても、控訴人主張の点(標識については前記のとおりである。)は、いずれも控訴人に対する関係で本件工事態様を違法とするほどのものであったと認めることはできない。」
9 同三五頁三行目<編注 本誌二三四頁四段一四行目>の「2 また、日照の点も、」を「4 次に日照被害の点について検討するに、」に改め、同三六頁五行目<同二三四頁四段三五行目>の「一地点」の次に「(南側壁面中央当たりで地盤から五〇センチメートルの高さのところ)」を加える。
10 同三七頁三行目<同二三五頁一段一二行目>から六行目<同一五行目>までを次のとおり改める。
「三 以上によると、被控訴人ミサワにはその担当者が前記合意を厳守しなかった点で違法な点があり、その結果控訴人は精神的苦痛を被ったと認めることができる。そして、右精神的苦痛に対する慰謝料は、以上に認定した諸般の事情を考慮すると、五〇万円と認めるのが相当である。被控訴人ミサワは、右担当者の使用者として、控訴人に対し、右損害を賠償する義務がある。また、控訴人が負担した本件弁護士費用のうち五万円は、右不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。しかし、控訴人の被控訴人上條らに対する請求は理由がない。したがって、控訴人の被控訴人ミサワに対する請求は、右五五万円及びこれに対する平成五年一二月二六日(甲第二五号証により、合意が守られなかった最後の日であると認めることができる。)から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容すべきであるが、右控訴人に対するその余の請求及び被控訴人上條らに対する請求は、理由がないから、棄却すべきである。」
二 よって、原判決中被控訴人ミサワに関する部分は相当でないから、これを右のとおり改めることとし、被控訴人上條らに関する部分は相当であり、右部分に対する本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法六七条、六四条を、仮執行の宣言について同法二五九条一項主文をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤英継 裁判官 伊東正彦 裁判官 安達嗣雄)